もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
ドラッカーを読む以上に、ドラッカーに感動できる、かもしれない本

弱小高校野球部の女子マネージャーの『みなみ』が、ドラッカーの『マネジメント』を学び、チームを甲子園に導くための『マネジメント』をする、という話。ビジネス入門書の枠組みを超えた傑作だ。美少女アニメ調の表紙で、いい大人が買うには相当躊躇するところではあるが、実はライトノベルの皮を被った、感動で泣ける『マネジメント』入門書だった。
ストーリー:弱小都立高校の野球部のマネージャーになった、みなみは、ある理由から『このチームを甲子園に連れていく』と決心する。そのため、自分のポジションである『マネージャー』の役割を深く知るために本屋の店員に『マネジメント』に関しての良書を尋ねる。勘違いした店員は不朽の名著であるP・F・ドラッカーの『マネジメント』をおすすめした。みなみは、その日から『マネジメント』をバイブルに、野球部という『組織』の改革に取り組んでいく。野球部という『組織』の『顧客』は誰なのか?その顧客に提供する価値は何なのか?野球部という組織の『マーケティング』と『イノベーション』はなんなのか??みなみは少しずつ周囲を巻き込み、真のマネージャーになっていく。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
著者/訳者:岩崎 夏海
出版社:ダイヤモンド社( 2009-12-04 )
定価:¥ 1,680
Amazon価格:¥ 1,680
単行本 ( 272 ページ )
ISBN-10 : 4478012032
ISBN-13 : 9784478012031
著者/訳者:P・F. ドラッカー 上田 惇生
出版社:ダイヤモンド社( 2001-12-14 )
定価:¥ 2,100
Amazon価格:¥ 2,100
単行本 ( 302 ページ )
ISBN-10 : 4478410232
ISBN-13 : 9784478410233
なぜ、本書は凡百のドラッカー入門書と違った感動を生むのか?
野球部の女子『マネージャー』と経営学で言う『マネージャー』が、本来同じ言葉であるのに、その期待される役割が天と地ほども違うという、言われるまで気づかなかったけど、言われてみればなるほど不思議なこのポイントに着目し、青春ストーリー形式でドラッカーのエッセンスを学べることが本書の売りだ。
ストーリー形式でビジネスを学ぶという形態は、エリヤフ・ゴールドラット博士の『ザ・ゴール』シリーズが有名だ。他にも最近ではマンガで学ぶタイプの本もよくある。
しかし、本書はちまたにあふれる、『物語・マンガでかんたんに学べる』シリーズと一線を画す。それは、そういった入門書が、単純に学ぶ内容を物語形式で説明している域を出ていないのに対し、本書は、『ドラッカーのマネジメント』であることが、ストーリーと密接に絡んでおり、ドラッカーのマネジメントの定義、『真摯さ』が、物語の感動の中心にすえられているからだ。
本書の違いの根本は、著者の感動にあるのだと思う。あとがきに書いてあるのだが、著者自身、マネジメントに悩み、学ぼうとして、たまたまそれまでよく知らなかったドラッカーの『マネジメント』を読み、心を揺すぶられ、涙を流すほど感動したという。企画書からマンガ家とストーリー作成者が選ばれ、『わかりやすいね』といわれることを目指す凡百の入門書と、それこそ『真摯さ』が違っているのだ。
事実、物語の中で主人公のみなみは、ドラッカーの以下の部分を読んで涙を流す。これは著者の姿だろう。
(『マネジメント』からの引用)事実、うまくいっている組織には、必ず一人は、手を取って助けもせず、人づきあいもよくないボスがいる。この種のボスは、取っつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしば誰よりも多くの人を育てる。好かれているものよりも尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。
このような資質を欠くものは、いかに愛想がよく、助けになり、人づきあいがよかろうと、またいかに有能であって聡明であろうと危険である。そのような者は、マネージャーとしても、紳士としても失格である。
マネージャーの仕事は、体系的な分析の対象となる。マネージャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくとも学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、はじめから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。(130頁)
みなみは、その部分を繰り返し読んだ。とくに、最後のところを繰り返し読んだ。
ーーー才能ではない。真摯さである。
それから、ポツリと一言、こうつぶやいた。
「・・・・真摯さって、なんだろう?」
ところが、その瞬間であった。突然、目から涙があふれ出してきた。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
p.18 第一章:みなみは『マネジメント』と出会った より
典型的なお約束シナリオを感動に持って行く、エンターテイメントのプロの手腕
弱小野球部サクセスストーリーとしては、超のつくほどお約束であり、ご都合主義の展開をしていくのだが、そこは放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』や『ダウンタウンのごっつええ感じ』等のエンターテイメント番組を制作してきた著者の手腕が遺憾なく発揮され、丁寧な伏線と抜群のストーリーの盛り上げ方で、一気に読ませる。その中で、ひとつひとつ丁寧に、必然としてドラッカーの『マネジメント』が語られていく。
秀逸なのが、第一章から第七章まで、一つずつ、ドラッカーの教えに忠実に進んでいった後、最終章である第八章で、ドラッカーのメッセージを超えていく作りだ。
ちなみに、第一章から八章までのタイトルは以下の通り。
第一章:みなみは『マネジメント』と出会った
第二章:みなみは野球部のマネジメントに取り組んだ
第三章:みなみはマーケティングに取り組んだ
第四章:みなみは専門家の通訳になろうとした
第五章:みなみは人の強みを生かそうとした
第六章:みなみはイノベーションに取り組んだ
第七章:みなみは人事の問題に取り組んだ
第八章:みなみは真摯さとは何かを考えた
注目すべきは、第一章から第七章まで、ドラッカーの教えを元に行った、みなみの具体的なアクションがタイトルになっているが、第八章ではじめて、『真摯さとはなにか?』とみなみが『マネジメント』に書いてある以上のことを主体的に考えることが、タイトルになっていることである。
その章ではただ、ドラッカーに沿っていくのではなく、『結果こそ評価し、過程を評価するな』とのドラッカーのメッセージに疑問を呈している。
ネタバレを避けるために、あまり詳しくは語らないが、その疑問に対して、『真摯さ』とは『逃げないこと』である、との著者のメッセージをさらりと示すことで、読者自身にも考えることをうながしている。成功しようとも、失敗しようとも、逃げないこと。それこそが『真摯さ』である、という著者のメッセージは、ドラッカーに心を震わせられた著者だからこそ書けるものであり、ドラッカーの金言に勝るとも劣らない。
自分もドラッカーに心を揺すぶられたこと
実を言うと、本書を読む大分前に、自分もドラッカーの本を読んで感動し、ちょっとはずかしいが、涙を流したことがある。
それはやはり、マネジメントの必要性として、『真摯さ』を語る部分を読んだときだ。
頭の回転、キレ、知識では人より劣り、会話やコミュニケーションといったヒューマンスキルもどちらかと言えば苦手な自分が、プロジェクト・マネジメントの仕事をずっとやってきた、ただ一つの理由は、『このプロジェクトを一番成功させたいと思っているのは、この自分だ。だから、このプロジェクトは自分が必ず成功させる』という、いわば根拠のない使命感からだった。
だから、『真摯さ』こそがマネジメントの条件である、というドラッカーの言葉は、能力に対するコンプレックスを持った自分の存在意義を認めてもらった思いがしたのだ。
そんなわけで、本書に関して点数が甘くなっているかもしれない。自分は既にドラッカーによって影響を受けた上でこの本を読んで感動したが、本書で初めてドラッカーに触れる人が、どういう感想を持つのか、とても興味深い。
真摯さ。『scincerity』と『integrity』
ちなみに、日本語の『真摯さ』というのは少し曖昧で、誤解を招く言葉のような気がする。
国語辞典をひいてみると、誠実さ・素直さとイコールのような書き方がされているが、ドラッカーがいう『真摯さ』はそういったことではない。
実は、英語で言うと、『integrity』という単語をドラッカーは使っている。
自分は原書で確認するまでは、和英辞典で『真摯さ』を引くと出てくる『scincerity』かと思っていたら違った。
英語が堪能な友人(Thanks! きむらくん)に聞いてみたところ、『integrity』と『scincerity』というのは明確に異なる言葉だということだった。
『integrity』は、目的があってその実現の為に内なる規範を保つ強さ、『sincerity』は目的云々関係なくただ素直というイメージであり、この二つをゴッチャに使うことはないそうだ。
なるほど、そういう点では『integrity』ほどこの概念にしっくりする言葉はあるまい。
考えてみれば、ドラッカーのいう『マネジメント』や『マネジャー』と、日本でそれらの和訳として利用される『管理』や『管理者』との温度差は非常に大きい。日本語の『管理』は、『コントロール』だったり『アドミニストレーション』の意味が強くあるが、『マネジメント』の意義で使われることはあまりないだろう。自分が『プロジェクト管理』とか『プロ管』という言葉を使うのは非常に抵抗感があり、なるべく『プロジェクト・マネジメント』という言葉を使っている理由だ。
この本を契機に、日本における『真摯さ』や『マネジメント』の定義が少しでも変わっていったらいいなと思う。
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